第十三回 今回ご紹介する本

Perry, B.D. & Szalavitz, M.(2006) The Boy Who Was Raised as a Dog. New York: Basic Books
(日本語訳:ブルース・D.ペリー、マイア・サラヴィッツ著、仁木めぐみ訳(2010) 犬として育てられた少年―子どもの脳とトラウマ、紀伊国屋書店)

今回取り上げる、この「犬として育てられた少年」は、

脳とトラウマについて重要な研究や治療を行い、アメリカではかなり著名なブルースペリー医学博士・博士による本です。その日本語訳は本当に待望されていたと思うので、私も皆さんにご紹介できるようになって、とても嬉しいです。

 ブルースペリー博士は、アメリカにおける、人々にとって大きなトラウマとなるような最近の事件(9.11同時多発テロなど)の被害者に対して、臨床的な貢献をし、また、日常的にある深刻な虐待についても、その研究と治療を行ってきた中心的な人物の一人です。

 こういった研究がなされるまでは、臨床では少しずつ知られてきてはいたものの、でもはっきりとは広まっていなかった、トラウマが与える子どもの脳への影響について、本書は明確にしており、本書を読むことで、幼少期のトラウマがどのように子どもの脳に影響を及ぼし、それが子どもの発達にどのような障害を与えるかを理解することができます。また、それだけではなく、子どもの脳の発達そのものについても理解することができる内容となっています。

 一人の子どもの例が一つの章として構成されているのですが、その流れは、ペリー博士がトラウマの治療について何もわかっていなかった実践初期のころから、研究や治療実践を通して、徐々に、でもはっきりとその影響を理解していく現在に向かって、本書は進んでいきます。そのため、私たちも、読み進めるうちに、トラウマが与える子どもへの影響を少しずつ理解する歩みをペリー博士と共にし、これまでの診断や治療での常識をペリー博士も私たちと同じように持っていた中で、それを塗り替えるような事例や研究からの知識に基づいた治療実践によって、その常識をつくりかえていくことを、私たちも同時に体験していくことが可能となります。

 トラウマが子どもの脳に一体どのような影響を与えるのか、という詳しいことは、本書を読んでいただくことにして、ここでは詳しく触れませんが、私がとても感銘を受けたのは、ペリー博士が、子どもに対して、そして子どもの呈している行動の問題や社会性の問題など諸々の問題に対して、「分からない」、という自分の気持ちにとても謙虚に率直であり続けたその姿勢です。そして、治療をしながら、その分からないことを理解しようとして、子どもとその環境にしっかりと向かい合っていこうとする姿勢もまた、心を動かされるものでした。その臨床的態度に裏打ちされているからこそ、博士による研究や書物は、つらい体験を多くしてきた子どもの状態を本当に理解する助けとなり、子どもの発達を深刻に阻害しているものに働きかけようとする私たち専門家を励ましてくれるのだと思います。
(文責:湯野)












 

 
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