第14回 今回ご紹介する本

Axline, V.(1964) Dib: In search of self. New York: Basic Ballantine Books. 

(日本語訳:バージニア・M. アクスライン著  岡本 浜江 訳(2010) 開かれた扉:ある自閉症児をめぐる愛の記録)

プレイセラピーを勉強されてきた方の多くは、この本のことをご存知と思いますが、小さな図書館でこの本をご紹介しておかないわけにはいかない!と思い、今回このプレイセラピーの古典とでも言うべき名著をご紹介することにしました。

 これは子ども中心プレイセラピーの開拓者、ヴァージニア・アクスラインのある男の子のクライエントとの出会いを描いた症例です。この『ディブス』という名前の男の子は、自閉症ではないかと疑われたほど、自分自身、そして外界とのコンタクトを失ってしまっていました。しかしアクスラインとの出会いを通して、ディブスはあたかもそっと自分の殻から世界に手を伸ばすような過程を辿って行くのです。

  初版は1964年。かなり昔の本で、アクスラインのプレイセラピーのスタイルもこの本が書かれたころから更に発展したといわれていますが、それでも遊戯療法家に必要な基本原理を述べたあの「アクスラインの八原則」が、実際セッションの中でどのように反映されるかがとてもよく描かれています。

 またこの本では、「子ども中心プレイセラピーでは親との関わりを持たない」「子ども中心プレイセラピーでは、セラピストはただ座っていて子どもの遊びを見ているだけ」「子ども中心プレイセラピーでは、セラピストは一切質問をしない」などといった子ども中心プレイセラピーへの誤解を解消してくれるシーンが多々出てきます。例えば、第八章ではディブスの母親が初めて親面接の為にアクスラインを訪ねてきた時のセッションのことが書いてあります。母親は、ディブスが幼いころから彼を愛おしむことに難しさを感じてきたと言うことを初めて語ります。母親が今まで封印してきたそのような感情を語れる安全な場所をアクスラインが提供しつつ、しかも母親を勇気づけ、自信の種を植えて行くアクスラインの対応には学ぶものが沢山あります。

 プレイセラピストは子どもにとってとてもユニークな存在となります。プレイセラピストは「一緒に遊んでくれる人」。でもただ一緒に遊んでくれる近所のお姉さんと違うのは、その遊びが、セラピストの、子どものあるがままの姿を受容する力、子どものニーズを察知する力、子どもの力を信じる力、子どもが遊びを通して何を伝えようとしているのか真摯に追求していく力、子どもに治療的な制限を与えられる力、子どもが表現する手段を提供してあげられる力の元に成り立っているからであり、プレイセラピストの存在が、今まで出会ってきた大人達とは「違う」ものとなるのです。このような子どもの体験は、ディブスが最終セッションでアクスラインに言った言葉に集約されています。

 

,,, you are not a mother. You are not a teacher, you are not a member of mothers bridge club. What are you?

it really doesn't matter...You are the lady of the wonderful playroom.p.204)

「あなたはお母さんじゃないでしょ。先生でもないし。お母さんたちのブリッジクラブのメンバーでもない。いったいなんなの?」

「あなたはこのすばらしい遊戯室のレディーだよね」

(日本語訳:開かれた小さな扉より抜粋) 


  理論やスキルで頭が一杯になってしまった時、セッションの中で何がおきているのかを見失いそうになった時、私は度々この本を読み返し、プレイセラピストとしての初心を思い出すと同時に、プレイセラピーの深さ、複雑さを再確認し、自分の洞察力、忍耐力等を発展させる機会にしています。プレイセラピスト必須の一冊です。

 

 



(文責:小川裕美子)

 
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