第八回 今回ご紹介する本

小倉清(1996)「子どものこころ:その成り立ちをたどる」慶應義塾大学出版社

 

これまで、プレイセラピーを直接扱った著書をご紹介してきましたが、プレイセラピーをするうえで、子どもの発達を理解することは不可欠なことで す。私たちプレイセラピストが直接子どもとかかわるときに、どのぐらいの年齢でどのようなことが心の中で起きるのか、そしてそれが発達上どのような意義を 持つのかを理解しておくことで、子どもをさらに理解できるようになるばかりではなく、保護者の方が子育てに行き詰っているときに私たちが子どもの心と親御 さんとをつなげる役目を果たすためにも、私たち自身の言葉で子どもの心の発達を理解しておくことが重要です。今回は、子どもの発達を理解するための優れた 著書をご紹介します。

 私は先ほど、「自分の言葉で理解しておくこと」が大事だと書きました。専門家として仕事をしているとと もすると、専門的な用語をそのまま普通の言葉のように使ってしまって、子どもが分かるようにこちらの理解を伝え返したり、そして保護者の方に理解できるよ うに伝えたりすることが難しく感じることもあると思います。
小倉先生の書かれた「子どものこころ」は、専門的な用語をほとんど使わ ずに、子どもの心の中でどのようなことが年齢ごとに起きてくるのか、そして、それが心の発達という視点からはどのような意味があるのか、ということが非常 に丁寧に書かれた著書です。

 乳幼児の子どもの発達理論として、フロイトの精神性的発達理論に始まり、心理社会的発達理 論、対象関係論や、分離個体化理論、そして身体や認知、言語の発達などの理論がそれぞれ挙げられますが、それらの理論で説明していることはすべて別々のも のというわけではなく、密接に影響しあって一人の人の成長や発達を作り上げているものだという考えが、この著書の軸となっているのだと思います。身体の発 達、言葉の発達、気持ちの発達、親や人との関係の発達、自分に対する考え方の発達、遊びや活動の発達、などが一つの物語のように生き生きと理解しやすく描 きだされて、私たちに子どもの心をたどらせてくれる一冊です。

 以前、子どものことが分からない、と子育てに悩んでいるお 母様に、何か子育てに役立つ本はないかと聞かれて、
この著書を「少し難しいかもしれませんが、読み飛ばしながら、必要なところを読 んでみてください」とお勧めしたところ、読まれた後にお母様が、「子どもがこんなにもいろんなことを考えたり、感じたりしていたのか、とびっくりしまし た。自分も子どもの頃そういうことを感じたことがあったな、とふと思い出したりして、自分も子どもも同じ人間なんだなーと思いました」と感想を伝えてくだ さいました。

 私たちが子どもだったときに感じていたのは、決して楽しく幸せなことばかりではなく、無力で不安定な気持ち がたくさんあったはずです。そしてそれは、今もなくなっているわけではなく、自分の中にあるものではあるのですが、でもつらいものとして見ないようにして いたり、守り方が上手になってきているものだったりします。
子育てをしていたり子どもと接しているときには、そういった忘れていた 気持ちが思っている以上によみがえります。その気持ちを再び自分で理解していくことが、子どものこころを育てていく大人には必要なことなのだということが この本にははっきりと示されていて、厳しくもとても愛情にあふれた本だなーと思います。


(文責:湯野貴子)

 

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